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木造家屋等低層住宅建築工事における労働災害防止対策の推進について

2024年10月30日

1 労働災害の現状及び問題点
(1) 労働災害発生状況からみた問題点及び課題
木造家屋等低層住宅建築工事における労働災害の発生状況をみると、別紙資料の
とおり休業4日以上の死傷災害は、件数では減少を続けているものの、建設業全体に占める割合は最近増加しつつある。一方、死亡災害は件数的にも増加傾向にあり、建設業全体に占める比率も大きく増加している。
このうち、死亡災害についてみると、毎年死亡者の80%前後が墜落災害によるものであり、同災害の防止がもっとも重要な課題となっている。また、平成5年の死亡災害のうち、具体的に作業内容等が判明しているものについて分析を行った結果では、建方作業等に従事中に被災したものが多く、全体の約70%を占めている。したがって、従来より各種の対策を講じてきたところであるが、以上のような労働災害発生状況を踏まえ、
イ 墜落災害を防止する上でより効果的な対策の一つとして、今後、建方作業開始前に足場の設置を行い、その後の工事を施工する工法(以下「足場先行工法」という。)を普及徹底すること
ロ 作業床の設置が困難な場合における防網の設置、安全帯の使用等を徹底すること
ハ 墜落による危険を防止するための保護帽の着用を高所作業に従事する労働者に徹底すること
等を重点に労働災害防止対策の推進を図る必要がある。
(2) 工事現場の状況等からみた問題点及び課題
イ 木造家屋等低層住宅建築工事の現場は、工期が短く、広範囲にわたって多数存在すること、また、特定元方事業者となる工務店(以下「工務店」という。)又は関係請負人である職別工事業者(以下「職別工事業者」という。)の責任者等が現場に常駐していないことが多いことから、現場を対象とした指導のみにより、すべての事業者に対し法令遵守及び安全衛生管理の徹底を図ることは困難である。
このため、個々の現場に対する指導のほか、工務店又は職別工事業者の店社の安
全衛生管理水準の向上を図るとともに、業界団体等の自主的な安全衛生管理活動
を促進する必要がある。
ロ 墜落災害に関する調査結果を見ると、足場設置後手すりが取り外され、復元されないままに作業が行われる等足場の管理が適切に行われていないことに問題が認められる。
このような問題が起きないよう適切な管理が行われるためには、現場で作業に
かかわるすべての事業者及び労働者の理解と協力が不可欠である。
ハ 小規模事業場の事業者の施工する現場にあっては、足場先行工法の導入が遅れており、また、安全衛生管理全般についても遅れが認められる。
このため、当該事業者を最重点対策として足場先行工法の普及をはじめとする
労働災害防止対策の徹底を図る必要がある。
さらに、労働者を使用しないで、自ら工事に従事する者が元請となる場合にあっ
ても、工事全体の労働災害防止のためには、足場先行工法による施工等安全な足場の設置及び関係請負事業場間の連絡調整の実施が不可欠であることから、元方事業者として安全衛生管理に関する法定事項等について周知を図り、元方事業者に準じた安全衛生管理の実施を求めることが必要である。
ニ 木造家屋等低層住宅建築工事の現場においては、いわゆる一人作業が多く、現場の安全衛生管理は労働者一人一人の安全衛生意識に大きく左右される実態があることから、安全衛生教育の充実を図る必要がある。
2 木造家屋等低層住宅建築工事における具体的な労働災害防止対策
(1)足場先行工法による工事の実施
木造家屋等低層住宅建築工事の施工に当たっては、足場先行工法による施工計
画の作成及び施工の徹底を図ること。
イ 足場先行工法に関するガイドラインの普及徹底
足場先行工法による具体的な足場の基準、施工手順、留意事項等については、
建設業労働災害防止協会(以下「建災防」という。)における検討結果を踏まえ
て策定した別添2の「足場先行工法に関するガイドライン」の周知徹底を図るこ
と。
ロ 木造家屋等低層住宅建築工事安全対策推進モデル事業の効果的な活用等
足場先行工法の普及を図るため、平成8年5月10日付け基発第292号「木
造家屋等低層住宅建築工事安全対策推進モデル事業の実施について」により木造
家屋等低層住宅建築工事安全対策推進モデル事業(以下「モデル事業」という。)
を実施することとしたところであるので、その効果的な活用を図ること。
なお、足場先行工法に関する十分な知識、経験を有していない事業者及び労働
者を使用しないで、自ら工事に従事する者(以下「事業者等」という。)については、モデル事業及び後記3の(1)により建災防の各支部に設置される木造家屋等低層住宅建築工事安全対策協議会等への参加により足場先行工法による施工
法を修得すること。
(2)安全衛生管理体制の整備
イ 工事現場における安全衛生管理の充実
木造家屋等低層住宅建築工事の現場においては、工務店の責任者等が常駐して
いないことが多いという実態から、職別工事業者が自ら自己の労働者の安全衛生
を確保するようにするため、当該職別工事業者は工務店及び労働者を使用しない
で、自ら工事に従事する者(以下「工務店等」という。)との連絡調整、現場巡視等による安全衛生管理を徹底すること。
工務店等は、これらの職別工事業者の行う安全衛生管理水準の向上のための取
組に対し、積極的に支援、協力を行うこと。
ロ 工務店の店社としての工事現場に対する指導、支援の充実
工務店は、店社の安全衛生管理体制を整備するとともに、安全衛生を担当する
者に定期的に工事現場を巡視させ、足場の設置状況等工事現場の安全衛生管理状
況の点検及び必要に応じ職別工事業者に対する指導を行うこと。
(3)適正な方法による作業の実施
イ 各種資格者による作業の徹底
高さ5メートル以上の足場の組立て、軒の高さが5メートル以上の木造建築物
の構造部材の組立て等に係る作業主任者の選任及び直接指揮を要する作業につい
ては、その選任及び作業の直接指揮の徹底を図ること。また、移動式クレーンの
運転、玉掛け等の資格を要する作業については、有資格者による作業の徹底を図
ること。
ロ 安全な作業床の確保等
健方作業については、足場先行工法により安全な作業床を確保するとともに、そ
の他の作業についても、高所作業における墜落災害を防止するため、安全な作業床を確保すること。ただし、作業床の確保が困難な場合には、防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等の措置を講じること。
ハ 保護帽の着用
高所作業に従事する労働者に対しては、墜落による危険を防止するための保護帽
を着用させること。
(4)工事用機械設備に係る安全性の確保
イ 移動式クレーンに係る安全の確保
移動式クレーンについては、工事の内容に応じた十分な能力を有するものの使用、アウトリガー及び過負荷防止装置の確実な使用の徹底を図ること。
なお、電線下又は電線を越えての資材のつり込みに配慮した、水平に伸縮する継
ぎジブを有する移動式クレーンが開発されており、この移動式クレーンを使用した場合には、足場先行工法において足場を全周にわたって完全に組み上げることが可能であるので、当該移動式クレーンの使用が望ましいこと。
ロ 木材加工用機械に係る安全の確保
携帯用丸のこ盤等の木材加工用機械については、歯の接触による労働災害を防止
するため、歯の接触予防装置等の安全装置を確実に使用させること等昭和63年4月8日付け基発第246号「木材加工用機械災害防止対策の推進について」別添1「丸のこ盤の構造、使用等に関する安全上のガイドライン」第6章に定める点検、使用等の徹底を図ること。
ハ 仮設用設備に係る安全の確保
足場については、木造家屋等低層住宅建築工事に対象を限定した緊結金具を使用
しない独自の鋼管があること、労働安全衛生規則の一部を改正する省令(平成8年労働省令第7号)により従来より肉厚の薄い軽い鋼管の使用が可能となっていること等に留意し、使用する部材の特性等を踏まえた構造とすること。
また、足場に使用する部材については、足場部材として製造され、使用基準等の
明らかにされているものの使用が望ましいことから、これらの使用の徹底を図ること。
さらに、使用する足場材等の仮設機材については、平成8年4月4日付け基発第
223号「経年仮設機材の管理について」に基づき適切な管理を行うこと。
(5)安全衛生教育等の推進
イ 木造家屋等低層住宅建築工事においては、新規入場者の把握が十分に行われがたいこと、教育実施者にその技法、内容等に関する十分な知識、経験を有していない場合があること等工務店等による新規入場者教育の実施の困難性を認めるものの、工務店等は当該教育の推進に努めることともに、職別工事業者は労働者に対する継続的な教育を実施すること。
ロ 作業主任者等は、足場先行工法に関する作業経験及び安全確保方法についての知識が不十分な場合があるので、工務店は、これらの者に対し、労働災害の防止のための業務に従事する者に対する能力向上教育に関する指針(平成元年能力向上教育指針公示第1号)、危険又は有害な業務に現に就いている者に対する安全衛生教育に関する指針(平成元年安全衛生教育指針公示第1号)及び平成3年1月21日付け基発第39号「安全衛生教育の推進について」による安全衛生教育推進要網に基づく教育を実施するとともに、足場先行工法に係る講習会、実地研修等を積極的に実施すること。
ハ 工務店等においては、足場先行工法による施工計画の作成を行う者がいない場合が想定されることから、これらの者を養成する研修の受講を促進すること。
なお、これらの教育、研修等は、小規模な職別工事業者においては単独で実施することは困難であるので、モデル事業の有効な活用に配慮するとともに、工務店等、関係業界団体、労働災害防止団体等は計画的に実施すること。
(6)職業性疾病予防対策の徹底
イ 有機溶剤中毒の予防
浴室、階段室、ドライエリア等の防水・塗装工事において有機溶剤中毒が多発し
ていることから、各事業者間の連絡調整、十分な労働衛生教育を実施するとともに、適切な換気の実施、呼吸用保護具の使用及び有機溶剤作業主任者の選任等の徹底を図ること。
ロ 熱中症の予防
平成8年5月21日付け基発第329号「熱中症の予防について」に基づき、涼
しい休憩場所の確保、水分の補給を容易にできるようにすること等の措置を講ずること。
(7)快適職場づくりの推進等
事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針(平成4年労働省告示第59号)に基づき、快適な職場づくりの推進を図ること。
特に、リフレッシュカー等の疲労回復設備については、熱中症の予防対策としても有効であることから、中小企業安全衛生活動促進事業助成制度の活用等により積極的な導入の推進を図ること。
(8)労働条件の確保等
労働条件の確保は、労働災害の防止と密接な関係があることにかんがみ、雇入れ通知書の交付、文書による晴負契約の締結等により、労働災害の防止に関する責任の所在を明確にするとともに、賃金、労働時間、休日等の労働条件の改善に努めること。
3 関係業界団体等による自主的労働災害防止活動の推進
(1) 木造家屋等低層住宅建築工事安全対策協議会の設置等及び計画的な活動の推進木造家屋等低層住宅建築工事における労働災害を防止するためには、小規模事業場の事業者及び労働者の安全衛生意識の向上が重要であることから、従来より、これらの事業者の参加を主眼として、木造家屋建築工事安全対策委員会(以下「委員会」という。)を設置するとともに、委員会による自主的労働災害防止活動を促進してきたところである。しかしながら、委員会については、設置されていない地域又は活動が十分でない若しくは活動の効果が上がっていない地域が認められる。
イ 上記を踏まえ、事業者の自主的な労働災害防止活動をより一層実効性のあるものとするため、委員会に代えて、従来の委員会の構成員に小規模事業場の事業者の団体、足場工事業者、移動式クレーンのリース業者等を加えた、木造家屋等低層住宅建築工事安全対策協議会(以下「協議会」という。)を建災防の各支部に設置する。
なお、委員会が活発に活動している地域においては、改めて協議会を設置する必
要はないが、上記の構成員を新たに加えることが望ましい。
ロ 木造家屋等低層住宅建築工事を施工する事業者は、協議会が実施する安全衛生教育等の活動に積極的に参加するなど自主的な安全衛生管理活動を推進する。
ハ 協議会は、中長期計画及び年間活動計画を策定し、次の各事項についての活動を計画的に推進する。
(イ) 各責任者、各労働者に対する安全衛生教育の実施
(ロ) 安全作業マニュアル、安全パンフレット、安全作業に関するビデオ等の作成及び配布
(ハ) 安全な工事用設備、作業方法等に関する検討の実施
(ニ) 自主点検用チェックリストの作成及び自主点検の実施
(ホ) 安全指導員等による自主的安全パトロールの実施
(ヘ) その他労働災害防止に有効であると考えられる事項
(2) 建災防における取組の活性化
イ 建災防は木造家屋等低層住宅建築工事における労働災害の発生状況を踏まえ、これらの工事における労働災害の防止が建設業全体の労働災害防止上重要な課題となっていることを認識するとともに、小規模事業場における安全衛生管理水準の向上について積極的に支援する。
ロ 事業者の自主的な労働災害防止活動は建災防が中心となって進めていく必要があることから、建災防は、事業者の加入を促進するとともに、事業計画の中で木造家屋等低層住宅建築工事に係る労働災害防止のための取組を強化する。
ハ 職別工事業者の団体にあっては、各種教育、安全大会等の行事を実行するには十分な組織となっていない場合及びその経験を有していない場合が考えられるので、建災防は、これらの場合についても当該団体を含めて関係業界団体と連携して取り組む。
ニ 建災防は、モデル事業について、効果的な実施に努める。
(3) 関係業界団体における自主的な取組の活性化
イ 関係業界団体においては、業界全体の安全衛生水準の向上を図るため、それぞれの組織の果たす役割及び機能に応じた労働災害防止活動を展開するとともに、事業者等の多くが小規模事業場の事業者等であることに配慮し、団体としての自主的な活動の活性化及び会員事業場への指導援助を行う。
また、足場先行工法に関する研修会等を開催するとともに、協議会及びその活動
への積極的に参加し、協議会における活動の中で安全衛生管理水準の向上を図り、自主的な安全パトロール、安全診断等を実施する。
ロ 職別工事業者においては、職別工事業者ごとの作業の特性を踏まえた安全作業マニュアルの作成、労働災害事例検討会、危険予知訓練等を行う。
ハ プレハブメーカー及び大手注文住宅建築業者は、自主的な協議組織を活用し、
安全パトロールの実施、傘下の大工、左官、とび等に対する安全衛生教育の実施等を推進する。
ニ 今後の取組において重点対象としている小規模事業場の事業者においては、足場先行工法に関する十分な知識、経験を有していない場合も多いと考えられることから、モデル事業の効果的な活用のほか、協議会及び関係業界団体は積極的に当該工法の普及等を主眼とする集団指導、パトロール等を行う。
(4)低層住宅建築工事労務安全研究会等における自主的な取組
大手ハウスメーカー及び足場工事業者等が中心となっている低層住宅建築工事労
務安全研究会等においては、木造家屋等低層住宅建築工事の安全対策の普及等について積極的に取り組むほか、関連事業場等に対する自主的安全衛生教育、研修等を実施するとともに、モデル事業に積極的に参加する。
(5)発注機関等による指導
住宅都市整備公団、都道府県の住宅供給公社及び住宅建築を大量に行う発注者は、発注時において足場先行工法による施工についての指導を行うことについて配慮する。
また、協議会及びその活動への参加について配慮する。
さらに、市町村における建築確認申請手続きの際の労働災害防止用パンフレットの配布について配慮する。

詳しくは厚生労働省ホームページ『厚生労働省 建設 災害防止対策』をご参照下さい。

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